青春18・城崎の旅(第4回)(03/01/13)


第四章 《城崎にて》



【写真18】城崎から福知山方

  速度制限のきついポイントをゴトゴトと渡って着いた城崎の駅は、日本海にそそぐ円山川の河畔にわずかにひらけた平地にある【写真18】。年末年始を温泉で過ごした客が土産物の袋を下げて戻りにかかるかき入れ時で、臨時列車を含めて構内には特急車両【写真19】が肩を並べる。
 狭いコンコース【写真20】も人の波でごったがえしているが、この場所に来たのは大学4回生の時以来で、約20年ぶりになる。ハチ高原での夏合宿の空き時間に、ひと目見ておきたいとなつかしい城崎まで足を伸ばして、駅前だけ見てとんぼ帰りしたのだった。
 駅舎や駅前広場【写真21】は、狭いが機能的に整備されている。小学生の時の記憶では、駅前がもっと狭かったような気がしたが、駅前に宿のマイクロバスが迎えに来る様子は今も変わらない。



 【写真19】臨時列車も運転
 
「北近畿86号」新大阪行
 (城崎駅1番ホーム)



 【写真20】賑わうコンコース
 
 ドアの形は昔のままだが、
  材質はアルミに変わっていた




 【写真21】城崎駅舎

  大阪や神戸への長距離バスも
  駅前から発車する





  これから城崎での滞在時間は3時間弱である。新幹線の中での3時間は退屈だが、旅先での3時間は長いようで短い。持ち時間を有効に活用するために、ここでの目的は入浴と昼食の2つに絞ってある。

 まずなんといっても入浴。ここ城崎には「外湯めぐり」《説明図》といって、7つの名湯を順番に入って回るのが名物になっている。もちろん全部回る時間はないのでひとつに決めなければならない。「庭園風呂」「洞窟風呂」などそれぞれに特色があって目移りするが、駅から手ごろな距離の「地蔵湯」【写真22】に目星をつける。


 【写真22】「地蔵湯」さん。

 
 【写真23】ロビーから温泉街を望む

  外に見えている橋の欄干あたりが
  写真22を撮った位置。

  座っているおばさんは通りすがりの人です。
 
  500円を払って中に入るとロビー【写真23】があり、暖簾をくぐると脱衣場という、街角の銭湯と作りは変わらない。派手な温泉旅館や健康ランドといった趣はなく落ち着ける。ロッカーは、名機ゴハチを気取って58番を選ぶ。
 風呂場はまだ改装したてのように新しく、ちょっとしたホテルの大浴場のようだ。さらりとした湯にのんびりとつかると、早朝からの強行軍の疲れも忘れる。何しろ足を伸ばせるのが良い。
 小学校中学年くらいの男の子が父親といっしょに湯に使っている。正月早々、城崎なんぞに連れてきてもらえるとは、幸せなお子様である。

 20人分ほどある洗い場の一角に座る。鏡に映った自分の姿は中年になり果て、張り出してきた腹にショックを受ける。昨年秋にタバコをやめて以来5キロ体重が増えた。その大部分は腹周りに付いたようだ。
 小学4年生の夏から32年。歳をとるはずである。あの時連れてきてくれた親も今ではめっきり老けた。しばし時の流れの無情を噛み締める。

 鏡をぼうっと見つめながら、何を考えるでもなくぼんやりと過ごすのは気持ちが良い。いつまでもこうしていたいような気がして、今日はこのまま城崎に泊まろうかとチラと思ったが、現実はそれを許さない。
 最後にもう一度温まろうと湯船につかる。壁面間際に小さな石庭がしつらえられていて、そこに直径40センチはあろうかという石柱が、天から落ちてきて突き刺さったように何本も据え付けられている。断面は六角形、紛れも無く玄武岩であった。今回の旅の主目的は、これから向かう玄武洞である。




 12時50分。予定していた時間に地蔵湯を出る。城崎温泉の主成分はナトリウムだそうだが、私が書こうとしている拙文は「鉄分」が主体なので、多くはない山陰本線のダイヤにあわせて、写真に収めておかねばならない。
 地蔵湯を出ると目の前に橋がある(写真23に見える欄干だ)。その名も「地蔵湯橋」といい、城崎駅前からの繁華街「駅通り」が温泉街へ突き当たったところにある。この橋の上から、川を渡る列車を何本か狙う。

 まずお目当ては城崎発12時54分の下り浜坂行173Dだが、時間を過ぎても現れない。13時を回り、手にした「JTB携帯時刻表」の信憑性を疑い始めた頃、12時59分着予定の上り大阪行「はまかぜ88号」【写真24】が約4分遅れで通過。その到着を待っていたのだろう、入れ違いに173Dが現れた。単線なので、これくらいのことは日常茶飯事なのに違いない。


 【写真24】 
 DC特急「はまかぜ88号」

 キハ41単行173Dはこちら。


 【写真25】 ひなびた温泉場


  

 【写真26】
 胃腸にいいらしいです



第一の目当てであった入湯も果たし、次は昼食とする。ガイドブック等でおなじみの温泉街【写真25】の探索を兼ねて適当なところを探す。ところどころに小奇麗なビルもあるが、軒を連ねる宿にはまだ木造も多く、数十年その姿を変えていないと見うけられるツワモノもある。
 民宿の窓ガラスに「お食事カニづくし!これだけついて1泊2食2万円」などと張り紙がしてあったりするが、果たしてそれが安いのかどうか。スーパーで1,980円のカニの冷凍パックに二の足を踏む私には見当がつかない。

 温泉街の中ほどまでくると、橋のたもとに「王橋飲泉場」【写真26】というのがある。石作りの祭壇みたいなところから湯気をたてて、かなり熱い温泉が流れ落ちている。備え付けの湯飲み茶碗でひとくちすすってみると、これがかなりしょっぱい。うまいものではないが話しのタネ、原稿のタネである。私が使った後の茶碗は、次に若い女性が使った。
 ここからさらに進むと観光ロープウエイと展望台があるが、時間がないので引き返す。先ほどの「地蔵湯」のロビーに、展望台から見た冬景色のパネル【写真27】がかかっていたので転載させていただきご紹介に代えさせていただく。

 そうこうするうちに時間もなくなり、適当な店も見つからない。大急ぎで25匹1,000円の甘えびを土産に買って、結局駅前の大衆食堂で「カニラーメン」を注文した。
 しばらくして「ハイ、カニ中華ね」といって運ばれてきたのは、まさしくラーメンではなくスープの透き通った中華そばで、細い腕身が1本とほぐし身が少々乗っただけの超シンプルなものだった。シーズンさなかに城崎へ来て、口に入るのはこれだけか、とやや自嘲しながら口に含むと、量は少ないながらもじわりとしみるその甘さに、カニの本場の意地を見たような気がした。



 (C)Takashi Kishi 2003

  

 
 【写真27】
 やっぱり雪が似合います。

 (注:「地蔵湯」さんロビーの
    パネルです)