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 名古屋臨海高速鉄道西名古屋港線野跡駅前、夕方5時。  (←漢字ばかりですが中国語サイトではありません)
フェリーターミナルへ向う幹線道路沿いのバス停にはまだ誰も現れない。
 道路の反対側に広場のようなバスプールがあり、数台がたむろっているのが見える。なんであんな目と鼻の先に、別のバス停(らしきもの)があるのか、目障りで仕方がない。いま自分が正しいと思って立っている乗り場が実は落とし穴なのではないか、との疑念が払拭できないが、乗るべきバスの時刻が迫っているので、ここを離れて確かめにいくわけにもいかない。
 そうこうするうちに
、それらしき客が2組、3組と私の後ろに並び始めた。万が一なら道連れである。


 ターミナル前で降車した相客はみなチェックインカウンターへと吸い込まれていくが、私は反対向きに歩き出し、これから乗る「いしかり」の雄姿を捉えようと歩き回る。トレーラーが走り回る荷役エリアをうろつくことは避け、ターミナルの場外道路から垣根のすきまにカメラを突っ込んで撮影ポイントを探す。挙動不審もいいところだがそれには構わず、重量級の車両どもを次々と飲み込んでいく巨大な船体に見ほれる。
 ひととおり撮影して正気に戻り、ようやくチェックイン。今日の船室はB寝台で、ネット予約限定の早割り50%オフを利用。北海道まで2晩過ごしてわずか6,200円(当時)とは、文句なしに激安だ。


■ターミナルにて

  
苫小牧まで1,330km、40時間の
長旅を前にたたずむ「いしかり」



全長199.9mの船体は
巨大なビルディングそのもの



ちらほらと集まり始める乗客


待合室はまだまだひっそりと

船首と同時に左舷からも積み込み中

長大なブリッジで乗船口へ向う

三片に分かれた搭乗券で、乗船・
下船ともしっかりチェックする



 長い搭乗橋を乗船口へと向うときの高揚感は良いものだ。ひょっとすると、乗ってしまってからの“リアル”よりも楽しい時間かもしれない。
 これは鉄道旅行でも同じで、あわただしく駅に駆けつけて列車に駆け込むよりも、行きかう通勤客の雑踏の中でふと立ち止まり、旅立ちの“ハレ”の空気を思い切り吸い込んでから、悠然と乗り込みたいものだと思う。
 あっさり乗船してしまってはもったいない、とキョロキョロしながら進んでいると、通路の途中に地上からのリフトがあり、地上から荷揚げした梱包を台車に積み替えている一団がいた。さまざまな資材や食材なども、こうして積み込まれているのだろう。
 うやうやしくパーサーに出迎えられて乗船。発船までの1時間余を船内探索に費やす。




■公室など



乗船口、案内所のあるエントランス。
過度にキンキラキンではないところが
スマートで好感が持てる(6デッキ)

最上層の7デッキから見下ろす


シンプルな中にもインテリアへの
こだわりが感じられるプロムナード
(6デッキ)


広々としたスカイデッキ。非常時の
集合場所としての収容力確保の
必要もあるのだろう(7デッキ)

■利用した客室
(B寝台)

上段・下段ごとにセパレートされた
ボックス。階段式で出入りもスムース


プライベートな空間を確保しつつ、
閉塞感を与えないような配慮が
うかがえる設計

個室内から見るとこんな景色

枕もとのコンセントでデジカメの
バッテリーを充電しておきます



■浴室とトイレ
(船ごとに特徴が出るものです)

浴室は5デッキから。
では参りましょう



壁面のデザインや色調のコンセプトに
入り口付近との統一感がありますね



個室はやはり温水洗浄式

シンプルで洗練感のある洗面室


 探索の後、19時の発船を待ちきれずにレストラン「サントリーニ」で夕食。
 バイキングというのは非常に残酷な食事スタイルで、豊富なメニューに目移りして悩んだ挙句、料金分の元をとってやろうという欲望で皿は埋め尽くされ、自分の貧乏たらしい根性が湯気をたてている。
 この航路では船中での夕食が2回あるので、あせらずとも2日間かけてじっくり楽しめばいいのだが、それでもなおカバーしきれないほどの魅力的なメニューが私を誘う。それは敏腕シェフからの贈り物か、レストランスタッフの営業努力の賜物か、はたまた私の旺盛な貧乏根性の産物か。




■食事



22日の夕食。いろいろ取りましたが、
何しろビールは欠かせない

23日の朝食は、スタンド「ヨットクラブ」の
モーニングで。


24日の朝食は、「サントリーニ」の
バイキングで和定食風のチョイス。














ここに写っていない時は
何食ってたんだろう・・・

 船中2泊の長い時間をどう過ごすか。もちろんいろいろと用意はしてきている。
 まずは、定番の読書。鉄道ファンのカリスマともいうべき宮脇俊三氏の文庫本を数冊持参してきた。がしかし、船の2段ベッドで鉄道紀行物を読むというのは、なんとなくミスマッチで気分の乗らないものだということがわかった。
 次にノートパソコンを取り出す。ウルトラブックというような上等なものではないので、これがリュックの容量の相当部分を占めた。大阪を出発して近鉄の車内で書きとめたメモを見ながら、テキストに起こしていく(「北海道ゼロ泊4日“各駅”停車の旅 近鉄で大阪〜名古屋の全駅に停まってみた」ご参照)。なかなか効率のよい時間の使い方だとは思うが、ベッドであぐらをかいての作業なのでしんどくなってきた。海を望むプロムナードへ場所を移して作業を続ける。これは我ながらなかなか絵になるぞ、と悦に入る。
 個人作業に飽きても、船内にはさまざまな設備もあってまったく退屈はしなかった。
 そもそも「退屈」とは、何かしたいのにするべきことが見つからず暇をもてあますことをいうのだろう。あわただしい日常から解放されて、船上での自由を手に入れた今、「自分は何もしなくてもいいのだ」という境地に至ってみれば、退屈という感情の起こりようもないのである。



■過ごし方いろいろ



プロムナードに場所を移して執筆。
これ以上の創作環境はありません



書き疲れたらマッサージ。
今や船内設備の定番です


何を観るでもなく大画面テレビ三昧。
足載せまで備わるのは本船だけかも


他の船客の皆さんも思い思いに
止まったような時を楽しみます

夕食後はラウンジ「ミコノス」でショー。
乗船時に搭乗橋のリフトで
機材を積み込んでいたのは、
実はこの出演者の方々でした


することがなければ海を見ましょう。
ここは船なんですから




そこは遮るもののない太平洋




めざす北の大地ははるかに遠い


 2日目の午後2時30分頃、僚船「きそ」とのすれ違いで旅はひとつのハイライトを迎える。互いに長声一発を交換して手を振り合い、航路の安全を祈るのだが、思えばこの感動を味わえるのも、昼間のうちにすれ違える長距離航路ならではの楽しみである。僚船とのすれ違いが夜中になってしまう瀬戸内海航路では、びっくりして目が覚めてしまうからやりたくてもできない。クルーの皆さんも、一度明るいうちにやってみたいと思っているかもしれない。
 遠ざかる船影の名残も消えやらぬうちに本州の島影が近いて、午後4時30分仙台港に入港。一時上陸はできないから、久しぶりの陸の景色を眺めながら船内でまったりと過ごす。




■僚船「きそ」とのすれ違い



はるかから近づく「きそ」。孤独な
大海原で僚船に出会うのは心強い

反航する相対速度は時速80km以上。
見る間に船影は大きくなる


名残を惜しむ暇もなく遠ざかる。
日々繰り返される哀愁の風景

やがてカモメが現れて
陸地の近いことを教えてくれる



■仙台港に寄港



およそ21時間ぶりの陸地だが、まだ
ここで降りなくてもいいのがうれしい


船内清掃整備のスタッフがスタンバイ。
快適な船旅は皆さんのおかげです


自動車運搬船も憩う港内に陽が傾く



やけにニヒルなカモメが翼を休める
彼らにとってはこれも毎日のこと


 まだ冠雪の残る樽前山を望みながら、苫小牧港にアプローチする。出港3日目の午前11時、長いだろうと予想していた2泊3日の船旅は、ひと時も飽くことなく終わりを迎えた。
 航海中ひっそりとしていたエントランスには、どこにいたのか下船口の開放を待つ人並みがあふれ、ひと時の賑わいを見せる。車で、バスで、思い思いに彼らが散って行った後、船内は40時間の晴れの航海から解かれて、しばらくの眠りにつくのだ。
日々繰り返す旅と人々の営みを、船は黙々と見つめ、運び続ける。



■苫小牧


接岸にはタグが活躍。
苫小牧港のルールだろうか

3社・4航路を擁する苫小牧西港。
北海道の海の玄関口といってもいい

ターミナル内のパネル展示より。
各社勢ぞろいは圧巻


2泊もすれば愛着も湧こうというもの

みなさんどこかへ行かれるのですね


私もそろそろ行くとします

さようなら

ありがとう

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kakko