《4》折り返し、九頭竜湖。
 容赦ない日差しから逃げる場所も無い勝山駅裏の停留所。小豆色の帯を巻いた越前大野行きのバスが時間通りにやってきた。もっともこの車両、ついさっきまでこの駅裏の駐車場の一角で昼寝をしていたのだが、いつの間にか姿が見えないと思ったら、系統の始点である市内の別の停留所までいったん回送され、律儀にここへ戻ってきたのである。
 乗り込んだ客は4人で、うち2人はM君と僕。あとの2人は大学生風の乗り鉄派である。同業者は見ればすぐわかる。途中の乗り降りも無く、4人がそのまま終点まで行った。

 勝山同様に整備工事中の駅前風景をしばし眺めてから九頭竜湖行きに乗り込む。以前シルバーとグリーンの涼やかなカラーリングだった車両は、鮮やかで暑苦しいオレンジ一色に塗りつぶされていた。平野が尽きて柿ヶ島、勝原と山間部に差し掛かると大粒の雨が車窓を打ったが、長いトンネルを抜けて九頭竜湖に着くとまるで別世界の晴天であった。
 M君は九頭竜湖が初めてだという。私は8年振りである(「青春18残り福・九頭竜の旅」ご参照)。8年くらいでは駅舎自体に大した変化は無いが、名産品などを売っていたコーナーは閉じられ、あるいはコインロッカーに化けていた。変わりに、特に今日は夏休み中の日曜日ということもあってか、隣接する「道の駅」は大した盛況で、テント張りの休憩コーナーでくつろぐ人々、林間学校帰りの小学生の一団などでごった返している。機械仕掛けで動く恐竜像までできている(口絵参照)。
 折り返しの福井行きは景気よく混んでいた。例の小学生の一団も乗っている。途中駅ではハイキング帰りの中高年なども乗ってきてますます賑やかになり、地元の客はあまり乗っていないから終点まで混んだままだ。
 私はクロスシートとロングシートの境目のスペースに陣取って車中の1時間半弱を立ち通した。九頭竜湖から福井まで、途切れることなく流れる窓外の景色は、8年前からの記憶を巻き戻して見せてくれるスクリーンのようであった。

  今回の旅の主たる動機を果たすべく、6年前にお世話になった福井駅前の食事どころを再訪するが、店はシャッターが閉ざされていた。外観からすれば廃業などした様子は無い。
 忘れていたが今日は日曜日である。日曜日に休む飲食店などあるものかと思うが、近辺で働く人々の食事であったり、会社帰りの宴会であったり、何かと平日の方が実入りが多いのであろう。地方都市はどこも休日は街の人出が少ない。
 6年越しの宿題を積み残したまま「サンダーバード」で帰途に着く。それはまた、次に福井を訪れる旅へのスタートでもあった。

リニューアル真っ最中の越前大野駅前。
ローカル線関連への投資はうれしいが・・・
駅構内ではパネル展を開催中
(クリックして拡大)
ラインのシンボルはジャイアンツカラー

物販コーナーは道の駅に使命を譲った
(九頭竜湖駅)
便利な時間帯の列車だけに乗客も集中 訪ねたお店は本日休業。そして物語は続く

(おしまい)
(C)Takashi Kishi 2011
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