《3》まったりと、勝山。
 めざまし代わりの氷見線往復を終えて、本格的な行程に入る。まずは、恐竜(の化石)が出ることで有名な勝山へ向かうのだが、高岡から「青春18切符」で乗ったばかりの列車をさっそく金沢で降り、改札を出て福井までの乗車券と自由席特急券を買いなおす。1日で行程を組むためにはやはり特急のお世話にならざるを得ない。
 しかし1,150円の特急料金はダテではなく、「サンダーバード」の快適な車内は昨夜の「きたぐに」とは雲泥の差で、昭和と平成の車両設計思想の格差を思い知らされた気がした。リクライニングに収まり、思い切り足を伸ばして味わう眠気覚ましのビールはなおのことうまかったが、「やっぱり旅行ってのはこうでなくっちゃね」と思わず漏らしたセリフには、もっと若い頃ならそんなことは言わなかっただろうに、と自分で笑ってしまった。

 6年ぶりの福井駅は、高架化以前の地平ホーム跡が駐車場になっているが、それもやがて延伸される北陸新幹線の高架下へ飲み込まれようとしている。えちぜん鉄道の駅舎がある東口は、1ブロックまるごと立ち退かせて駅前広場を拡大したようで、以前の裏口めいた雰囲気から面目を一新していた。
 勝山行きの車内は休日の行楽客で賑わっていた。書籍「ローカル線ガールズ」で知られることとなった、名物の女性アテンダントも、なまり丸出しで頑張っている。
 永平寺線の廃線跡が弧を描いて分岐する様子や、日本の車窓ナントカに選ばれたという九頭竜川沿いの風景を眺め、案外長い1時間弱を過ごして、勝山に到着。少し早いが、越前大野へ向かうバスへの乗り継ぎ時間を利用して、ここで昼食にする。めざすのはガイドブックにも出ている、蕎麦屋「Y」である。


高架化された福井駅で
サンダーバードを見送る
福井駅東口広場。
新幹線の高架がここまできている
永平寺行きの廃線跡が分岐していく
(えちぜん鉄道 永平寺口駅)

終点・勝山の側線に憩う珍品たち
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勝山駅前は「社会資本整備総合交付金」で整備中

 勝山駅前の目抜き通りを進むと、すぐに九頭竜川にさしかかる。勝山橋からの景観に暑さを忘れる(口絵参照)。
 めざす「Y」は表通りから路地を入った、目立たぬ場所にあった。まず目に入ってきたのは製粉所で、蕎麦屋はその棟続きになっていた。開店時間の11時には10分早かったが、恐る恐る引き戸を開けると快く招じ入れられた。
 店の切り盛りは、30代〜40代の女性が3人。製粉所はそのうち誰かの親父さんだろうか、じいさん一人の担当であった。冷3品、温1品のみのメニューの中からおろしそばを注文して待っていると、中学生くらいの女子が店番に加わって女性が4人になった。この4人の相関関係はよくわからないが、訊くのもヤボである。30分ほどで食事を済ませ、見事なまでに人気のない街中を散策してから勝山駅前に戻った。
 駅近くのポイントをロケハンして、えち鉄の写真を撮った。1時間に上下4本のパターンダイヤで、下り電車が到着すると、ほどなく先着していた編成が上り電車として発車していく。バスの発車までに、到着・発車それぞれ1本ずつのシャッターチャンスがあった。一面緑の稲穂の波をさざめかせながら列車が去り、南中したばかりの太陽が容赦なく照りつけた。
そろそろこの辺りだが・・・・
表通りの軒先に小さな看板を発見。
製粉所は窓ガラスも真っ白。
蕎麦屋はこの棟の左端。
店内は手作り感のある趣き。

M君はおろしそばを一気に2枚。 私は2品目にとろろそばをオーダー。
やや茶色がかった自然薯が美味
店のおもてを練り歩く子供みこし。
静まった街でここだけが生気に溢れる

現代と古代の恐竜がにらめっこ
勝山駅に進入する1125K列車
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入れ違いに福井行1220K列車が発車
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(C)Takashi Kishi 2011
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