《2》とりあえず、氷見。
 富山から福井にかけてはいろいろと乗るべき路線があるが、氷見線は当初の宿泊地候補だったこともあり、M君は特にご執心で、富山到着後はまず氷見線を往復することが無条件に決まっていた。それから先をどうするかが、実質的なプラン検討の起点となった。
 まず、富山港線はそもそも検討対象とはならなかった。M君はすでに別の機会に富山ライトレールに乗っているし、私もJR時代に終点まで乗っている。
 次に選外となったのは城端線で、地元の方には申し訳ないが、乗らなかったことが惜しまれるような要素にとぼしい。ただし、これは鉄道への乗車に限った話であって、昔出張の合間に訪れた城端の町並みは落ち着いた風情があり、重厚な造りの堂宇を構えた社寺の一角を中心に、そぞろ歩きにも良い土地である。観光客目当ての施設などほとんどないのが、また良い。
 最後まで悩んだのは七尾線・のと鉄道の扱いで、のと鉄道と越美北線とはどうしても両立しなかった。ここは次の機会に氷見でゆっくり一泊してからのお楽しみとして見送り、結局まとまったのが左表のルートである。
 勝山までのえちぜん鉄道は私も初乗りになる。ここから福井へ戻らずに、バスで越前大野までショートカットすれば、越美北線の全線に乗れてしまうというのが今回のミソだ。

 北陸本線乗り継ぎまで1時間あるので、ひとまず出口へ向かう。まだ4時半だというのに、通路でおばさんや若者のグループとちらほらすれ違う。これから都会に出て休日を楽しむぞ、とヤル気満々であろうことは、みな持ち物や身なりに気合が入っているのでわかる。この時間に乗るべき列車といえば、4時53分発の大阪行き「サンダーバード2号」しかない。夜行の「きたぐに」は別として、実質的に富山駅の上り一番列車であるのはもちろん、後で調べてみると大阪環状線の内回り始発(天王寺発4時49分)に肩を並べ、さらに外回りの始発とは同タイムなので驚いた。
 
富山駅近くの吉野家で朝食。待合室での雑魚寝も覚悟していたが、食事が出来て暇もつぶせるのは有難い。 
 余談だが、地方主要都市で吉野家を探そうとすれば、駅のドまん前には案外と見つからないものだ。正面ロータリーから目抜き通りを300メートルほど直進して、やがて左右に合する幹線道路もしくはアーケードの角地あたりを探せばあのオレンジ色の看板が見つかる、というのがM君とのいいならわしになっている。2009年の夏に夜行バス「おけさ号」で訪れた新潟でもそうだったし、今回の富山もやはりそうであった。
 腹を満たして生気を取り戻した戻り道、駅からすぐ目の前に、時代に取り残されたような映画館を見つけた。こんな駅前に何じゃこれはと驚かされるが、そのレトロさを逆手に「古き良き昭和」調の盛り場として頑張っているようだ。
 富山駅は北陸新幹線の工事が急ピッチで、元の駅舎は閉鎖され、すぐ隣の仮駅舎で営業している。
迷路のような跨線橋でたどり着いたホームからキハ47の2両編成が発車し、夜勤明けのようないでたちの初老の男性と我々を乗せて氷見を目指す。途中の乗降はほとんどなかったような気がする。
 民家の隙間を裏路地のようなか細い路盤ですり抜け、臨海工業エリアに突っ込んではまた抜けて、やがて列車は日本海に出た。波打ち際を最徐行で巡る急カーブの対岸は、源義経ゆかりの名跡「義経岩」だ。私はその名を聞くとすぐに名著「時刻表2万キロ」を連想する。氷見線のことはその第1章に出てくるから、特に印象が強い。

 空っぽのマッチ箱を転がしたような氷見駅舎に降り立つ。高岡から一緒だった初老男性が駅前の駐輪場へ消えると、日曜日早朝の駅頭には我々二人だけになった。客待ちのタクシーがいたがそれは無用なものに思われた。
 20年ほど前、出張で高岡に2週間滞在したことがあり、その間の休日を利用して氷見線や富山港線、加越能鉄道万葉線などに乗った。あの時氷見の町をぶらついていると、飲食店ででも働いているのか、富山の地方都市とは結びつきにくい、東南アジア系の女性とすれちがったりしたものだが…と思い起こしてみるが、どうもこの駅前の風景には見覚えが無い。「氷見には以前うまい魚を食いにきたけど、そんときゃツレの車やったからナ。」M君の声で我に返る。
 確かに鉄道駅かいわいは人気がないが、街の中心街や、氷見漁港などの人気エリアはもっとはなれたところにある。鉄道だけでの動員はともかく、マイカーやバスで訪れる観光客は少なくないだろう。駅前ロータリーには、まだ新しい観光案内図と主要な施設までの距離を示す標識なども建っている。いまのこの風景だけでなにかと判断するのは早計のようだ。

 折り返し時間はすぐにやってきた。他に誰か乗っていたかどうかも思い出せないほどの、ひっそりした発車風景であった。

従来ホームを背後に後退させて
新駅の工事が進む富山駅
名勝 雨晴海岸の「義経岩」 富山行きの一番列車と雨晴で交換。
なぜか外人観光客が居眠り。。。

静かな日曜日の朝を迎えた氷見駅
車はあるが人はいない
藤子不二雄センセイのおふたりは
氷見と高岡のご出身でござるよ。ニンニン
そろそろ折り返しの発車でござるよ
(もうええって)


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